山田五郎「大人の教養講座(グラーナハ)」(&エロ)

■画家クラーナハ。(絵画スタイルや方法が受け、成功者に。)

 自由に絵をかき売り込む有名画家と違って、彼は宮廷画家になる。ドイツ・ザクセン公(賢明公)にスカウトされる。彼の特徴は、自分の描きたい絵ではなく、お客様の好みの絵を描くことで大変な人気を得る。彼に描いてもらいたい人々が殺到し、彼はその為の大工房で次々と作品を作った。絵の具の調剤で、材料を管理することで、同時に薬や砂糖の独占販売権も手に入れ、財力も手に入れる。議員としても活躍し、市長にも3回もなっている。ザクセン公から、紋章をいただくという名誉も得ている。グラーハナの描くビーナスは、それまでのイタリア的で肉感的なビーナスと違って、華奢で貧乳で足が短い。いわゆる普通の身近な女性に近かった。

 みんなが歴史の教科書で見ているルターの絵を描いたのがクラーナハ。ルーカス・マーラー(画家のルーカス)が本名。代々画家のファミリーと思われる。クラーナハという苗字は、出身の地名からとっている。(南ドイツ)30歳くらいの時はウィーンで活躍していた。32歳でフリードリッヒ3世にスカウトされる。クラーナハの特徴の2つ目は、当時の最先端のファッションを描くことだった。当時のファッションがよくわかる。過去を題材とした絵画でも描いた当時のファッションを着せるという特徴も人気だった。量産画家で、欧州のどの美術館に行ってもクラーナハの絵画は飾ってある。

ザクセン公とグラーナハとルター夫妻との縁。ルターの宗教改革支援者に。

 ザクセン公は大学を作った。その時招いた神学者が、マルティン・ルターだった。そして、とても優秀だった。だから、生徒に教えつつ、カソリックが行っていることの間違いが気になって、間違いを正そうと動き始める。贖宥状。札を買えば、犯した罪を許されるという、ゲスの金儲け。なぜ、カソリックがこんな金もうけに走ったか。バチカンミケランジェロなどに大金払ってバンバン絵画を描いてもらっていたから、お金が足りなくなっていたから。バチカンが南ドイツから金を吸い取っていた。ルターは、神の前に人は平等だ、聖書に従えばよい、教会なんていらない、神父のヒエラルキーはいらない(=カソリック)と教えた。ここから宗教改革が始まる。これを支援したのが、クラーナハだった。ルターと彼女の絵を大量に描いた。これが欧州を席巻した。ルターの教えが、ルターの絵とともに欧州中に広まった。印刷所も持っていた。ルターは、聖書をドイツ語に訳し、それをクラーナハが印刷してドイツ版聖書を作って、これが大きな力になった。カソリックは神父、修道女は結婚できないとされたが、そんなことを聖書は書いてないと言って結婚した。この結婚の仲人になったのも、クラーナハだった。この宗教改革は、偶像崇拝を否定することになり、その批判が宗教画にまで広がった。これによって、宗教画の注文がなくなっていって、自分が苦しくなってしまう。

■エロ画の流行。山田五郎さんのエロ論。

 一方、宗教改革で、教会の力が小さくなり、倫理の番人が力を失った。これによって、エロ画が流行した。クラーナハは、このエロ画も請け負った。クラーナハは、兄弟子のイタリア人からイタリア風の画風も教えてもらっていたので、当初は、イタリア風の肉感的な理想的な裸体を描いていた。ところが、段々と痩せた足の短い女性の裸体に代わっていった。なぜか。クラーナハは、元々依頼人の要望に応える画家として人気だった。つまり、ドイツ人の依頼者の好みは、こうだった、ということになる。

 山田は熱く語る。エロとは、何か。パーフェクトな美しさは、きれいだけど、エロくない。完成には惹かれず、不完全さに惹かれてエロさを感じるのだ、と。真っ裸がエロいかと言ったら、圧倒されてエロくない。隠されるから、ぐっとくる。裸に、薄い布、帽子、首輪。今で言うと、裸にエプロン、ブーツ、靴下。不釣り合いな関係。(爺と少女)

 山田五郎さんのエロ論、とても面白い。そして、絵画の裏側の歴史の知識、人々の思いや価値観、そして、歴史が動いていく裏側を知って、無茶苦茶面白かった。